コンパッソ・ドーロ(Compasso d’Oro)賞 ダブル受賞
〜イタリア・インダストリアル・デザイン協会(ADI)主催〜
1. 「Milan Design (Eco) System」年次レポート「本賞」
2. 「The City of Lights」「特別賞」
1. ミラノサローネの研究プロジェクト
「Milan Design (Eco) System 」年次レポート
第29回 ADI コンパッソ・ドーロ 本賞 受賞

世界最大級のデザイン・エコシステムを研究したプロジェクトが高評価
「Salone del Mobile.Milano オブザーバトリー」は、毎年4月に経済成長とイノベーションを生み出し、デザインの国際的首都としてのミラノのアイデンティティ形成に寄与する独自のグローバル・エコシステムを分析する研究プロジェクトです。同オブザーバトリーが推進し、ミラノ工科大学デザイン学部の学術支援を受けて制作された『ミラノ・デザイン(エコ)システム年次報告書』は、方法論的な質と学際的アプローチが評価され、「理論・歴史・批評的研究および出版プロジェクト」部門において第29回ADI コンパッソ・ドーロ賞を受賞しました。
“イベント”を超えた、都市規模の知的インフラへこの研究プロジェクトを通じて、ミラノサローネは恒久的なオブザーバトリー(研究観測機関)を設立しました。
Salone del Mobile.Milano Permanent Observatoryその目的は、システムを構成する多様なプレイヤーから得られるデータや知見を収集・整理・解釈し、サローネおよびミラノ・デザインウィークが生み出す価値を、単なる個別施策の集合ではなく、ミラノの国際的ポジショニングやデザイン文化の進化に影響を与える“集合的現象”として可視化することにあります。審査員は選考理由として、サローネがデザインシステム全体に対して、より広範な責任を担おうとする姿勢を高く評価しました。
「この機関は、サービスデザインのプロセスを通じて、狭義の組織的境界を超え、定期的にミラノに集うデザインシステム全体に対する広範な責任を引き受けている。科学的なデータ収集手法に、傾聴力と包摂性を組み合わせることで、経済的・文化的波及効果の包括的な全体像を実現し、私たちが深く誇るべき現象の継続的改善の基盤となっている」

5月22日、イタリア・ミラノの「ADIデザインミュージアム」にて開催された授賞式には、FLA Eventi会長ジャンフランコ・マリネッリ、同社CEO兼ゼネラルマネージャーのルカ・パレルモ、サローネ・デル・モービレのゼネラルマネージャーであるマルコ・サベッタに加え、研究プロジェクトの発案者・キュレーター・著者であるスザンナ・レグレンツィ(コミュニケーション戦略アドバイザー兼サローネ・デル・モービレ・オブザーバトリー・キュレーター)、そしてミラノ工科大学デザインスクールを代表してフランチェスコ・ズルロ教授、ステファノ・マッフェイ教授が出席しました。

マリア・ポッロ代表
「研究を通じて、都市とデザインの未来を可視化した」
ミラノサローネのマリア・ポッロ代表は、今回の受賞について次のように述べています。
「この受賞は、研究を“ビジョン”と“責任”のための手段として投資してきたサローネの姿勢を評価するものであり、私たちにとって非常に特別な意味を持っています。ミラノサローネは世界でも類を見ないイベントです。毎年、ミラノデザインウィークとともに、都市、企業、機関、大学、プロフェッショナル、そして新世代を巻き込む文化的・経済的・関係的プラットフォームを形成しています。私たちはこの認識を継続的なものにするため、オブザーバトリーを設立しました。これは、私たちのシステムが生み出す影響を測定する恒久的な装置であり、国家の生産・文化システムの競争力に価値をもたらしています。その影響は経済波及効果を超えるものです。今回のADI コンパッソ・ドーロ賞は、単なる出版プロジェクトではなく、デザインを学際的現象として捉え、都市と国際ネットワークの現代的進化と深く結びついた“知のインフラ”を構築したことを評価するものです」
オブザーバトリーが担う役割
データで読み解く「ミラノ・デザイン・システム」
本プロジェクトの中心には、「Salone del Mobile.Milano オブザーバトリー」の活動があります。
これは、サローネのエコシステムを読み解き、測定し、解釈するための研究機関として設立された恒久的組織です。2024年以降、同オブザーバトリーは、行政機関、大学、研究センター、企業、業界団体、専門家、ステークホルダー間の対話プラットフォームとして機能し、データ文化と応用研究の定着を目指しています。
260ページ超、861件の現地調査
年次レポートが可視化した“都市とデザイン”
2024年に発表された初版レポートでは、37のデータホルダー、86の情報ソース、530件の現地調査データをもとに、260ページ超・90点以上の図表から成る分析フレームワークが構築されました。
2025年版では調査範囲をさらに拡張し、ミラノにおけるデザイン文化生産や都市流動性、地域経済への影響について、より詳細な分析を実施。22のデータホルダー、861件の現地調査、31名の寄稿者、320ページに及ぶ研究、87点の図表を収録しました。
また、オブザーバトリーとミラノ工科大学デザインスクールが共同開催した2回のワーキングテーブルでは、240名以上の関係者による継続的対話が行われ、イベントが生み出す文化的・都市的・経済的変化への共通理解を深めました。

サローネ・デル・モービレ・ミラノ/デザインウィーク地域経済への波及効果経済波及効果
消費、支出、デジタル決済
執筆:ミラノ工科大学デザイン学科
Francesco Ceconello、Massimo Bianchini、Carla Sedini、Stefano Maffei、Francesco Zurlo
来場者消費による経済波及効果
ミラノサローネ開催期間中の観光関連支出について実施された調査では、宿泊、飲食、ショッピングなど主要カテゴリーの消費額を分析した。この調査は、イベントが地域経済へ与える影響を理解するうえで重要であり、以下を把握することを目的としている。
- どの産業分野が最も恩恵を受けているか
- 来訪者の需要構造
- 都市と地域経済との関係性
また、来場者ニーズに対応したサービス提供や、より持続可能な観光施策の検討にも寄与する。ミラノ市、ローディ県、モンツァ・ブリアンツァ県の商工会議所調査機関による2024年版推計では、今回の「Milano Design Week」による観光消費額は約2億7,500万ユーロに達し、2023年比で +13.7% 増加した。
表5.9 ミラノデザインウィーク期間中の観光消費推計(2023年/2024年比較、単位:百万ユーロ)
| 項目 | 2023 | 2024 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 宿泊サービス | 101.3 | 115.6 | +14.2% |
| 飲食サービス | 71.9 | 81.8 | +13.7% |
| ショッピング | 56.2 | 63.4 | +12.7% |
| サローネ入場券 | 12.3 | 14.3 | +16.1% |
| 合計 | 241.7 | 275.1 | +13.7% |
デジタル決済データ分析
イタリア商業連盟のデータによると、1人当たり平均消費額は以下のように推計されている。
- 宿泊サービス:121.4ユーロ(2023年比 +10.6%)
- 飲食サービス:85.9ユーロ(+10.1%)
- ショッピング:66.6ユーロ(+9.2%)
これらの数値は大規模イベントが地域消費を強力に喚起することを示している。
表5.10_ 1人当たり1日平均消費額
(2023年/2024年比較、単位:ユーロ)
| 項目 | 2023 | 2024 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 宿泊サービス | 109.8 | 121.4 | +10.6% |
| 飲食サービス | 78.0 | 85.9 | +10.1% |
| ショッピング | 61.0 | 66.6 | +9.2% |
| 合計 | 248.8 | 273.9 | +10.1% |
補足分析
特に宿泊関連支出の増加が顕著であり、国際イベント開催時にはホテル価格が通常週と比べて大幅に上昇する傾向が確認されている。またイベント開催期間中は市内各地区でも平均消費額の上昇が見られ地域全体への経済波及効果が示された
行政・大学・国際研究者も参画 / 広がる国際的コラボレーション
このプロジェクトは、ミラノ市、ロンバルディア州、大学、ミラノ・デザインウィーク地区、研究機関、専門団体など、広範な協力ネットワークによって支えられています。
さらに、英国の社会学者チャールズ・ランドリー、マーシャル・マクルーハンの弟子でメディア理論家のデリック・ドゥ・ケルクホーヴェら国際的研究者の理論的貢献も加わりました。
また、フェルトリネッリ出版社およびトマス・マルドナド基金とも協働しています。
トークイベントや公開プログラムも展開
年次レポートに加え、オブザーバトリーは公開イベントやトークも主催しています。
第64回サローネ期間中には、「Common Archive – The White Night of the Project(コモン・アーカイブ ― デザインの白夜)」や、「Next Gen at Work(実際に働く人が語る仕事のストーリー)」などを開催。グリーン・デザイン・デイズ(Green Design Days)およびAssarredo(イタリア家具工業連盟 家具部門)とも連携しました。
スザンナ・レグレンツィ
「散在していたデータ資産を、初めて一つの景色として可視化した」
オブザーバトリー・キュレーターのスザンナ・レグレンツィは次のようにコメントしています。
「この共同作業によって、これまで散在していたデータ資産を可視化することができました。サローネ自身が生み出したデータと、市内データホルダーが提供したデータを統合することで、ミラノ・デザイン・システムの魅力、脆弱性、そして国際競争環境の中で進化を支える関係性を、より鮮明に読み解くことができました。今後はさらに専門的な研究を進めると同時に、優良事例共有やエコシステム強化に向けた具体的プロジェクトにも取り組んでいきます」

ミラノ工科大学
「デザインを“都市現象”として分析した点に意義」
ミラノ工科大学デザインスクール学部長フランチェスコ・ズルロ教授と、同大学教授ステファノ・マッフェイ教授は次のように締めくくりました。
「本プロジェクトの意義は、ミラノのデザインを文化的・都市的・経済的に複雑な現象として捉え、他の国際的見本市やデザインウィークとは一線を画す存在として分析した点にあります。2回にわたるレポートは、データ、地域、文化実践、社会変化を結びつける学際的フレームワークを構築しました。ミラノサローネというイベント、その安定的かつ能動的な資源システムである“Sistema Design Milano”、そして分散型クリエイティビティの非公式モデルの相互作用の中から、ミラノ独自のアイデンティティが浮かび上がっています。都市全体のエコシステムも、この集合的付加価値に深く関与しています。そのため、環境問題、アクセシビリティ、都市居住性への配慮がますます重要になっています」
次回レポートは2026年12月公開予定
『Milan Design (Eco)System Annual Report』第3版は、2026年12月に発表予定です。
2. ミラノサローネ「The City of Lights」
第29回 ADI コンパッソ・ドーロ 特別賞 受賞

エウロルーチェ 2023 を「The City of Lights (光の街)」へ再構築した、革新的キュレーションプロジェクトが評価

エウロルーチェ(Euroluce)2023のために開発された文化プロジェクト「The City of Lights」が、イタリアデザイン界で最も権威ある賞である第29回ADI コンパッソ・ドーロ 特別賞 (Honourable Mention)を受賞しました。
同賞は1954年に建築家・デザイナーのジオ・ポンティの発案により創設され、ADI(イタリア工業デザイン協会)が主催しています。
今回の受賞は、第31回エウロルーチェを刷新したキュレーションとデザインビジョンを高く評価したものです。同プロジェクトは、デザイン、建築、現代美術、写真、理論研究、出版、展示実験を統合し、人間体験を中心に据えた新たな展示構成によって、エウロルーチェを“文化的プラットフォーム”へと変貌させました。
「見本市」を超えた、新しい文化体験へ
このプロジェクトは、ミラノサローネとアッソルーチェ(Assoluce/イタリア家具工業連盟 照明部門)が、カルロ・ウルビナーティ代表の指導のもと、隔年開催の照明見本市のフォーマットを、ビジネス・文化・展示体験の観点から根本的に再考することを目的に立ち上げたものです。
従来の「見本市」という枠組みを超え、来場者が「歩き、滞在し、発見し、体験する」都市型インスタレーションとして再設計されました。
マリア・ポッロ代表
「“The City of Lights”は、私たちにとってパラダイムシフトだった」
ミラノサローネのマリア・ポッロ代表は、今回の受賞について次のようにコメントしています。
「『The City of Lights』は、私たちにとってパラダイムシフトでした。単にエウロルーチェを刷新するのではなく、国際イベントが今日どのように文化を形成し、感性を導き、現代社会の複雑性を読み解くことができるのかを問い直したのです。光は、空間、人、テクノロジー、知識の新たな関係性を考察する出発点となりました。この名誉賞は、体験の質、研究の力、異分野間のつながりを重視したプロジェクトへの評価であり、現代デザインの新たな語り方を切り拓くものです」
アッソルーチェ
「“来場者中心”という新しいビジョンを提示した」
アッソルーチェのカルロ・ウルビナーティ代表は次のように述べています。
「思想の価値が認められる機会はそう多くありません。今回、アッソルーチェはエウロルーチェ再構築への推進力と支援に対して名誉賞を授与されました。私たちは展示会そのものを再解釈し、過去の来場者たちの経験と期待を取り込もうとしました。そして“来場者中心”というビジョンを強く提案できたことを誇りに思っています」
“光の街”という没入型フォーマット
グリッド型展示会から、流動的な都市空間へ
「The City of Lights」は、ベッペ・フィネッシがコンセプトおよび学術監修を務め、Lombardini22による総合展示レイアウトを基盤として開発されました。
プロジェクトは、従来のグリッド型展示会を超え、“光の街”という流動的・没入型・関係性重視の空間を創出。交流、滞留、移動、視覚体験、文化コンテンツを中心に構成された、新しい展示都市空間が誕生しました。
ベッペ・フィネッシ
「光を“文化”として語りたかった」
ベッペ・フィネッシは次のように語っています。
「光は単なる技術や機能ではなく、創造性であり言語であり、想像力であり雰囲気でもあるという確信から、このプロジェクトは生まれました。そのため、異なる背景・世代・感性を持つキュレーター、アーティスト、建築家、デザイナー、グラフィックデザイナー、写真家、研究者たちを結びつけました。私たちはエウロルーチェを、多元的で学際的、そして文化的にも横断可能な場にしたかったのです。この名誉賞は、現代プロジェクトにおけるキュレーション研究の価値を認めるものです」
Lombardini22
「空間を設計することは、“関係性”を設計すること」
ロンバルディーニ22(Lombardini22)のReinventing Fairsプロジェクトディレクター、クリスティアン・カターニアは次のように述べています。
「これはチーム全体にとって非常に重要な受賞です。『The City of Lights』は、展示会フォーマットを再考するLombardini22の第一歩でした。私たちは出展者の可視性向上や来場者体験の改善だけでなく、科学実験・デザイン・イノベーションを通じて、人間中心の文化運動を生み出そうとしています。空間を設計することは、常に“関係性”を設計することだからです」
展示・インスタレーション・トークが交差
学際的プログラムとしてのエウロルーチェ
本プロジェクトには、キュレーター、アーティスト、クリエイター、研究者が参加し、展示、サイトスペシフィック・インスタレーション、没入型空間、トークイベントなどからなる大規模な学際プログラムが展開されました。

フォルマファンタズマ「ミラノサローネは“文化生産の場”になり得る」
フォルマファンタズマのアンドレア・トリマルキとシモーネ・ファッレシンは次のようにコメントしています。
「Auroreのようなプロジェクトは、ミラノサローネが単なる商業プラットフォームではなく、文化生産と研究の場にもなり得ることを示しています。サービスではなく“コンテンツ”構築への協働は、デザインの文化的価値を再認識させる重要な可能性を開きます」

グラフィックと出版も“体験設計”の一部に
また、Leftloftによるグラフィックデザインとビジュアルアイデンティティも重要な役割を果たしました。同社はサインシステムや情報設計を、キュレーション体験そのものへと昇華させました。
さらに、コライーニ出版は編集パートナーとして、Leftloftと共同で書籍『The City of Lights』を制作。この書籍は単なるカタログではなく、理論・視覚・デザイン体験の複雑性を記録する“研究と記憶の装置”として機能しています。
コライーニ出版
「見本市は“本”となり、世界を巡る」
コライーニ出版のピエトロ・コッライーニ社長は次のように述べています。
「『The City of Lights』は、展示、空間演出、ナラティブを横断する実験です。見本市が展覧会となり、最終的には書籍へと変化し、イベント期間や場所を超えて、世界中を巡るアイデアとビジョンのアーカイブになります」
Leftloft
“ブルータル”なグラフィックが、文化体験を導く
Leftloftクリエイティブディレクター、ダヴィッド・パスクアーリは次のようにコメントしています。
「都市は複雑性によって形成され、人々が自らのニーズに合わせて輪郭を変えることで本物になります。『The City of Lights』のアイデンティティは、その有機的な重層性から着想を得ています。蛍光紙、デンプン糊、黒インクによる“海賊的”プロジェクトであり、展示空間を占有する“ブルータル”なグラフィックは、Euroluce 2023の多様な文化プログラムをつなぐ導線となりました」



